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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)9409号 判決

原告

株式会社アプラス

(旧商号 株式会社大信販)

右代表者代表取締役

多田裕一

右訴訟代理人弁護士

森本輝男

阿部清司

被告

京都シルク株式会社

右代表者代表取締役

田中敬一郎

右訴訟代理人弁護士

田原睦夫

服部敬

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、三六万〇二九四円及びこれに対する平成四年九月一九日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、和装用品の購入者からのクーリングオフの効力を巡って、販売店である被告と代金立替業者である原告との間で、被告の販売方法の態様が訪問販売等に関する法律(以下「訪問販売法」という。)所定の規制を受けるべき販売方法に該当するか否かが争われた事案である。

一  争いのない事実

1  (基本契約の存在)

原告は、被告との間で、昭和五八年ころ、次の約定による割賦販売基本契約を締結した。

(一) 被告は、原告の承認した顧客に対し、呉服を販売し、原告は、被告に対し、顧客の依頼により、その買掛債務を立替えて支払う。

(二) 被告は、原告に対し、手数料を支払い、原告は被告に対する立替払の際、右手数料を控除して支払うものとする。

(三) 原告が被告に対する立替金支払後、被告又は顧客に起因する理由で取消、清算をするときは、被告が原告に対して支払った手数料は返還しないものとする。

2  (呉服販売及び立替払委託契約の成立)

(一) 被告は、平成三年九月二四日、福貴田倫子(以下「福貴田」という。)に対し、和装用品の付け下げ、袋帯セット、八掛(以下総じて、「本件商品」という。)を三六万〇二九四円で売り渡した(以下「本件契約」という。)。

(二) 原告は、福貴田との間で、右同日、本件契約について、次の約定による立替払委託契約を締結した。

(1) 原告は、被告に対し、本件契約における販売代金を立替払する。

(2) 福貴田は、原告に対し、右立替金及び分割手数料合計四五万四九七九円を左記のとおり分割して支払う。

ア 平成四年二月二七日限り一万三四七九円

イ 平成四年三月から平成七年一月まで毎月二七日限り一万〇九〇〇円

ウ 平成四年から平成六年まで毎年七月限り一万円

エ 平成四年から平成六年まで毎年の一二月二七日限り一万円

(三) 立替金の支払

原告は、被告に対し、平成三年九月二七日、立替金の内金三六万〇二九四円を支払った(なお、手数料一万六二一三円を控除した額を送金した。)。

二  争点

1  原告は、被告に対し、本件契約の解除による原状回復請求として、右立替金三六万〇二九四円、及びこれに対する右解除後の平成四年九月一九日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  これに対して、被告は、本件契約が訪問販売法所定の規制をなすべき訪問販売によるものではない旨主張する。

3  そこで、本件契約が次の各点での法的評価の結果、訪問販売法所定の規制をなすべき訪問販売によるものと認められるか否かが本件の中心争点である。

(一) 本件商品が展示販売された販売場所は、被告の営業所か否か。

(二) 被告の福貴田に対する誘引方法が、訪問販売法施行令一条一号所定の「電話により当該売買契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに営業所その他特定の場所への来訪を要請する」販売方法に該当するか否か。

第三  争点に対する判断

一  証拠(甲二ないし四、証人福貴田)及び弁論の全趣旨によれば、本件契約前後の次の各事情を認めることができる。

1  被告は、平成三年九月二〇日から同月二二日までの間、奈良県大和郡山市雑殿町一七番地所在の料理旅館「尾川」で着物及び和装用品の展示販売会の開催を予定した。

2  福貴田は、被告との間でのその商品購入の機会を持ったことはなかったところ、右同月上旬ころ、勤務先の会社事務所で、被告の営業担当係の従業員から、「着物の展示会をするので来ていただきたい。」と述べて、右展示会への来場要請を受け、右展示販売会の開催日時・場所等を記載したパンフレットの交付を受けるとともに、「右期間中においては、市価四八〇〇円ないし一万二八〇〇円相当の草履等の和装小物の特価品を一人一点限り二八〇〇円で販売するので、右特価品の引換券を一〇〇〇円で購入すれば、結局、一〇〇〇円で右特価品を購入したのと同一の特典が得られる。」旨の勧誘をも受けた。

3  そこで、福貴田は、右引換券一枚を一〇〇〇円で購入し、右引換券のうちの被告用控え部分としての「御来場予約カード」欄に住所・氏名・電話電号を記入していたが、その後の右展示期間に至ったころには、右展示会自体を忘失していたところ、同月二二日午後四時三〇分ころ、被告従業員からの電話で、「特価品の引換えに来て、商品も見てください。」との旨の誘引を受けた。

4  そのため、福貴田は、前記料理旅館「尾川」に出向いて、同旅館二階の展示販売所で引換券で草履を受領した後、被告従業員の勧めもあって、気にいった着物等の本件商品を購入することとして、その場で本件契約を締結した。

5  ところが、福貴田は、自宅に戻って考えてみると、不急の物を購入したと感じられたため、原告及び被告に対し、同月二七日ころ、葉書で本件契約を解除するためのクーリングオフの通知を発送した。

二  そこで、右認定事実によって、本件争点について検討する。

1  (争点(一)について)

本件契約は、被告の開催した展示販売会場である料理旅館内の二階で締結されたものであるところ、被告は、着物等の右展示販売会を三日にわたって開催していたところであるから、右会場は、訪販法所定の営業所に該当するものと認めることができる。すなわち、訪問販売法立法趣旨は、訪問販売が販売業者からの過度の攻撃性を帯有してなされがちであることから、その攻撃性のある態様による販売方法を規制し、排除することにあると考えられるところ、本件契約では、三日間ではあっても、商品の展示販売のための場所を設けて、購入者の考慮・選択の余地を残していると評価することができるところであるから、右会場での販売態様については、これを営業所として許容しているものと解するのが、右立法趣旨に合致するものと考えられる。

2  (争点(二)について)

被告の従業員による特価品引換券の販売による来場誘引の点については、特価品交換券の販売価格が低額であって、誇大広告による誘引の面があるとはいえ、右従業員が福貴田に対し、着物の展示販売会のための勧誘であることを明らかにしていたところであるから、訪販法施行令一条一号所定の訪問販売方法がとられたと認めることはできない。

三  そうすると、被告の本件契約締結方法が訪販法所定の規制をなすべき訪問販売の態様によるものということはできないから、福貴田の被告に対するクーリングオフはその効力を有しないものというべきである。

したがって、原告の本訴請求は、その前提を欠くので、理由がない。

(裁判官伊東正彦)

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